お通夜やお葬式で故人へ弔意を示す焼香は、日本の仏教において古くから行われてきた大切な儀式です。「焼香 宗派」という言葉で検索する方がいることからも分かるように、この焼香の作法は、実は宗派によって違いが見られます。なぜ同じ仏教徒でありながら、焼香の方法が異なるのでしょうか。これは、仏教がインドから中国、そして日本へと伝わる過程で様々な思想や解釈が生まれ、多数の宗派が成立し、それぞれが独自の教えや儀礼を発展させてきた歴史に由来します。具体的な作法の違いとして最もよく知られているのは、抹香を香炉にくべる回数と、香をつまんだ手を額の高さにまで持ち上げる「おしいただく」という動作を行うかどうかの違いです。例えば、浄土真宗では「おしいただく」という動作は行わず、焼香の回数も他の宗派より少ないのが一般的です。これは、阿弥陀仏の本願力によって誰もが救われるという教えに基づき、自らの行いによって功徳を積むという考え方をとらないため、「おしいただく」という自己の敬虔さを表す行為を行わないという背景があります。一方、天台宗や真言宗などでは複数回焼香し、「おしいただく」動作も丁寧に行うのが一般的です。これは、自らの行い(作法)を通じて仏様や故人に敬意を表し、自身の心を清めるという意味合いがより強く込められているためと考えられます。このように宗派ごとに作法が異なるのは、焼香という行為に込める意味合いや、仏様への向き合い方に関する思想の違いがあるからです。どの宗派の作法が正しいというものではなく、それぞれの教えに則った故人への供養と仏様への礼拝の形なのです。もしあなたが参列者として、自身の宗派と異なる葬儀に参列する場合や、宗派が分からない場合は、どうすれば良いでしょうか。最も大切なのは、形式に完璧に倣うことよりも、故人の冥福を心から祈り、弔いの気持ちを込めることです。周囲の方の作法を参考にしたり、あるいは心を込めて丁寧に一度焼香するだけでも、故人への敬意は十分に伝わります。大切なのは形ではなく、その行為に込める「心」なのです。宗派による焼香の作法の違いを知ることは興味深いですが、それ以上に故人を思う心を重んじて焼香に臨みましょう。
宗派で異なる焼香の作法とその理由