医師から臨終を告げられた直後、遺族が最初に行わなければならないのが、故人の遺体を病院から搬送し、安置することです。この葬儀前の最初のアクションは、時間との戦いでありながら、故人と過ごす最後の密接な時間をどこで作るかを決める、極めて情緒的な選択でもあります。現代の病院の多くは遺体安置室のキャパシティに限りがあるため、逝去から数時間以内、早ければ1時間程度での搬送を求めてきます。この短い時間で、安置場所を「自宅」にするのか、それとも「斎場の安置施設」にするのかを決めなければなりません。かつての日本では自宅に連れ帰り、北枕で寝かせて通夜を迎えるのが一般的でしたが、住宅事情や近隣への配慮、あるいはマンションの規約などにより、現在は直接斎場へ搬送するケースが6割から7割を占めています。しかし、もし可能であれば、短時間であっても住み慣れた自宅へ一度連れて帰ってあげることは、故人への何よりの供養になりますし、遺族にとっても現実を受け入れるための大切なステップとなります。搬送にあたっては、葬儀社に寝台車の手配を依頼します。この時、まだ葬儀社が決まっていない場合は、病院提携の業者に搬送だけを依頼することも可能ですが、料金体系を確認しておくことが必要です。安置が完了すると、枕飾りという簡易的な祭壇が用意され、故人の枕元で線香を絶やさない「守り刀」の儀式などが行われます。葬儀までの数日間は、この安置場所で故人とゆっくり対面できる貴重な時間です。一般葬であれば、通夜までの間に親しい親族や友人が弔問に訪れますが、遺族はその対応をしながら、同時進行で葬儀の打ち合わせを進めなければなりません。納棺の儀式もこの期間に行われます。故人が生前愛用していた服を着せ、好きだったもの、例えば愛読書や写真、好物などを副葬品として納めます。最近では専門の納棺師による「エンバーミング」や「ラストメイク」を施すことで、生前の面影に近い姿で送る人も増えています。この時期の過ごし方で最も大切なのは、遺族自身の体力の温存です。葬儀当日のエネルギーを確保するため、交代で仮眠を取り、食事を抜かないよう意識することが必要です。また、故人の死を友人や知人に知らせるタイミングも慎重に図りましょう。あまりに早く広く知らせすぎると、打ち合わせ中に次々と弔問や電話が入り、必要な準備が滞ってしまうこともあります。安置から葬儀までのこの静かな時間は、死という圧倒的な現実を、家族がそれぞれのペースで噛み締め、別れを受け入れていくための「猶予期間」でもあります。形式的な準備に追われる中でも、時折故人の傍らに座り、手を合わせ、語りかける。そんな静寂な時間が、葬儀後の長い喪失の期間を支える、大切な心の糧になるのです。
病院から自宅への搬送と葬儀までの過ごし方