スマートフォンの普及とともに、葬儀前後のタスクとして新たに、そして急速に浮上してきたのが「デジタル遺産の処理」です。これは故人が遺したインターネット上の資産やデータのことで、目に見えないがゆえに整理が難しく、放置すると金銭的な被害やプライバシーの漏洩に繋がるリスクを孕んでいます。葬儀前の段階で、もし故人がエンディングノートにIDやパスワードを記していれば非常に幸運ですが、そうでない場合、遺族はまずロックされたスマートフォンの壁に突き当たります。ここで無理にパスワードを何度も入力して初期化させてしまうと、二度とデータにアクセスできなくなるため、慎重な対応が必要です。葬儀後の整理で特に優先すべきは、有料サービスの解約です。定額制の音楽・動画配信、クラウドストレージ、アプリの課金、さらには証券口座やネット銀行の取引など、放置すれば自動更新され、故人の口座から延々と引き落とされ続けることになります。銀行口座が凍結されれば引き落としは止まりますが、それは同時に滞納扱いになることを意味するため、まずは速やかにサービスを特定し、解約手続きを取ることが肝要です。次に、SNSアカウントの取り扱いです。FacebookやInstagramなどは、追悼アカウントとして残すことができる機能もありますが、そのままにしておくと誕生日通知が届き続けるなど、遺族や友人にとって辛い思いをさせることもあります。故人が生前どのように扱ってほしかったかを推測し、削除するか維持するかを決めなければなりません。また、写真や動画データも大切な遺産です。GoogleフォトやiCloudなどのクラウド上に保存されている場合、遺族がアクセス権を取得するための手続きは非常に煩雑ですが、最近では各社が「故人アカウント管理機能」などを提供し始めています。さらに、暗号資産(仮想通貨)を所有していた場合、その秘密鍵を紛失すると資産そのものが消失してしまうという致命的な問題も発生します。葬儀前後の混乱期にこれら全てを把握するのは不可能に近いですが、まずは故人のスマートフォンとパソコンを確保し、公共料金の引き落とし通知メールなどが届いていないかを確認することから始めましょう。デジタル遺産の整理は、専門の代行業者が登場するほど高度な専門性を必要とする分野になっています。自力での解決が難しい場合は、被害が拡大する前にプロのアドバイスを仰ぐべきです。デジタルデータは消えてしまえば二度と戻らない「現代の遺品」です。形のある遺品と同じように、一つひとつを丁寧に確認し、適切に処理していくことが、これからの時代の葬儀前後における新しいマナーであり、不可欠な義務となっているのです。