葬儀と、それに続く繰り上げ初七日法要という、大きな儀式を終えた後、ご遺族は、四十九日の「忌明け(きあけ)」までの、約一ヶ月半にわたる「忌中(きちゅう)」または「中陰(ちゅういん)」と呼ばれる期間に入ります。この期間は、故人の魂が、まだこの世とあの世の間をさまよい、成仏するための旅を続けている、非常に大切な時期であると同時に、残されたご遺族が、少しずつ、深い悲しみと向き合い、心を整理していくための、重要な時間でもあります。この期間の過ごし方には、古くからの慣習に基づいた、いくつかの心得があります。まず、最も大切なのが、自宅に設けられた「後飾り祭壇(あとかざりさいだん)」または「中陰壇(ちゅういんだん)」での、日々の供養です。この祭壇には、ご遺骨、白木の仮位牌、そして遺影が安置されています。ご遺族は、毎朝、炊きたてのご飯(一膳飯)やお水、お茶を供え、故人が好きだったお菓子や果物などもお供えします。そして、朝晩、家族で祭壇の前に座り、線香をあげ、手を合わせて、故人の冥福を祈ります。この毎日の、静かで、規則正しい祈りの行為が、乱れた心を少しずつ落ち着かせ、故人の死という現実を、穏やかに受け入れていく、助けとなります。また、この忌中の期間は、故人の供養に専念するため、お祝い事への出席や、神社への参拝(神道の「死」は「穢れ」とする考え方に基づく)、そして派手な遊興などは、慎むべきとされています。お中元やお歳暮を贈る、年賀状を出す、といった、季節の挨拶も控えるのが一般的です。ただし、これらの慣習は、現代の生活様式に合わせて、その捉え方も柔軟になっています。大切なのは、形式に厳格に縛られることよりも、「今は、故人を偲び、静かに過ごす期間なのだ」という、意識を、心の中に持つことです。そして、この期間に、ご遺族は、香典返しの準備や、本位牌の手配、そして四十九日法要の段取りなど、次の節目に向けた準備を、少しずつ進めていきます。悲しみに沈むだけでなく、故人のために、そして自分たちの未来のために、具体的な行動を起こしていく。そのプロセスこそが、忌明けという、新たな一歩を踏み出すための、力強い助走となるのです。